畳のある暮らしは、なぜ心が落ち着くのか?
畳のある暮らしは、なぜ心が落ち着くのか?
〜日本人の感性と、い草の力をめぐるコラム〜
はじめに
畳の部屋に入ると、なぜかホッとする。
お茶の香り、障子から差し込む光、そして足の裏に感じる畳の柔らかさ──
そんな記憶のなかに、畳という存在は静かに寄り添っています。
「なんとなく落ち着く」
そう感じたことがある方は多いはず。
では、なぜ畳の空間は人を安心させ、心を落ち着けるのでしょうか?
このコラムでは、畳が持つリラックス効果、素材としての“い草”の特性、
そして日本人の暮らしとの深いつながりについてお話ししていきます。
畳の香りがもたらす癒し効果
畳に近づくと、ふわっと広がる草の香り。
この香りの正体は「い草(イグサ)」という植物です。
い草には、フィトンチッドという森林浴と同様の成分が含まれており、
自律神経を整え、脈拍を安定させ、リラックスを促す効果があるとされています。
さらに、香りには以下のような作用も:
- 脳を落ち着かせ、集中力を高める
- 副交感神経を優位にし、眠りの質を高める
- ストレスホルモン(コルチゾール)を抑制する
実際、ある研究では「畳の部屋で寝たグループは、フローリングの部屋より深い眠りが得られた」というデータも。
日本人の暮らしが、昔から畳とともにあった理由の一つは、
この“香りによる癒し”にあるのかもしれません。
素材としてのい草が持つ「五感へのやさしさ」
■ 肌ざわりのやさしさ
い草は天然素材のため、硬すぎず、柔らかすぎず。
足の裏に「適度な反発」と「自然な吸収感」を与え、無意識にリラックスを促します。
畳の上でゴロンと横になると、背中から体が解けていくような感覚になるのはこのためです。
■ 吸湿性・空気清浄効果
い草には調湿機能があり、
湿気が多い時は吸収し、乾燥している時は放出して室内を整えてくれます。
また、二酸化窒素やホルムアルデヒドなど、
空気中の有害物質を吸着・分解する力も持っています。
これは、まるで“呼吸する床材”。
カーペットや合板フローリングにはない、
自然素材ならではのやさしさです。
■ 音・振動の吸収性
畳は音を吸収する力が強く、
歩く音や物を置いたときの衝撃を柔らかく受け止めてくれます。
結果、部屋全体が「静かに落ち着いた空間」へと変わるのです。
畳がつくる“間”と“余白”のある空間
現代の住まいでは、時に“余白”が失われがちです。
家具に囲まれ、視覚情報に溢れた空間の中で、
人は無意識に疲れていきます。
そんなとき、畳の空間には「間(ま)」があります。
畳の目(模様)に沿って視線が整い、
床に座ることで天井が高く感じられ、
身体も心も自然と“静”に戻っていく。
座卓、正座、ちゃぶ台──
そこには「余白と共に過ごす」暮らしの知恵が息づいています。
昔ながらの知恵と、現代の感性のあいだで
「畳は古いもの」──そう感じてしまう方もいるかもしれません。
ですが今、再び注目されているのが“和モダン”というインテリアの考え方です。
琉球畳や縁なし畳を使ったシンプルな市松敷き。
洋室と調和するカラー畳や和紙畳。
現代の住まいに合う畳のスタイルも数多く登場しています。
懐かしくて新しい、
そんな畳空間は「ほっとできる場所」として、
リビング横の和コーナーや、寝室、書斎などに取り入れられています。
おわりに 〜畳は“心のインフラ”かもしれない〜
香り、肌ざわり、湿度、音、空気──
畳は私たちの「五感」に直接働きかけてくる、稀有な建材です。
フローリングが機能性を求めて発展した一方で、
畳は“感性”を支えてきたと言えるのではないでしょうか。
郡山という土地で畳をつくり続けてきて感じるのは、
この素材がもつ静かな力と、
暮らしに与える安心感の大きさです。
少し立ち止まりたいとき、
部屋に“余白”をつくりたいとき──
そこに畳があるだけで、空間の空気は変わります。
畳はただの床材ではありません。
それは、暮らしを支える「心のインフラ」なのかもしれません。
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